2014年11月11日朝日新聞: 《火影忍者》15年專題特集

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1999年から集英社「週刊少年ジャンプ」に連載されてきた人気マンガ『NARUTO』が10日、第700回で完結した。最強の忍者を目指す主人公ナルトが、仲間と出会い、ライバルと競い、成長して世界滅亡の危機に立ち向かう壮大な物語。15年に及ぶ連載を終えたばかりの作者、岸本斉史さんにインタビューした。(聞き手・小原篤)

 

「実感、まだない」

 

──今の心境は?

岸本さん: 最後の原稿を描き終えてからまだ12時間も経っていないので、実感が何もない。もっと解放された気持ちになるのかな、と思ったけど、毎週締め切りが来る15年間の感覚が体に残っていて、また来週も締め切りがあるんじゃないか、そんな気分。終わったらあれをやろうこれをやろう、といろいろ考えていたけど、いざ終わると何から手をつけていいのか分からない。まずは、仕事場の掃除かな。それからスポーツとか、マンガ以外のことがしたい。あ、ちゃんとマンガも描きますよ。来春、『NARUTO』の番外編となるお話を短期集中連載で描く予定です。

 

──ラストの構想はいつぐらいから?

岸本さん: 主人公ナルトと、物語の始まりからずっとライバルだったサスケ、2人を対決させて終わりにしようというのは、連載を始めた頃から決めていた。ただ、友だちとして戦うのか敵として戦うのか、どういう気持ちで戦うか、どういうセリフを持ってくるか、連載中にだんだんと具体的に固まっていった。2、3年くらい前から「完結に向かい始めたな」と感じて、ようやく半年ぐらい前に「あと何回で終わらせよう」と決めた。 連載を始めた時、担当編集者に「5年は続けましょうね」と言われた。「マジか? 5年もやるの?」と思った。連載を始めたら週刊連載のスケジュールのハードさがこたえて、「こんなにきついなら終わっちゃってもいいかな」なんてチラッと思ったりもした。本当はもちろんイヤだけど。それにしても、15年も続くとは考えてもみなかった。

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「キャラクターたちが粘った」

物語がこれだけ長くなったのは、キャラクターたちが頑張って粘るから。僕が簡単に答えや解決に導こうと思っても、彼らがそうしてくれない。諦めず、あがいて、力を出し尽くして、ようやく納得してくれるというか、いいヤツになってくれるというか。もし、そこで僕が自分の都合で思い通りにキャラクターを動かしてしまったら、ウソくさくなる。キャラクターのリアリティーがなくなってしまう。だから、初めに自分の構想したページ数より倍くらいかかってしまうことになる。

 

──例えば中盤の山場の「ペイン編」では、敵を率いていたペインがナルトの言葉で納得し、戦いをやめる。どういう言葉ならペインも、そして読者も納得するのか? そこへたどり着くのが大変ということですね? 岸本さん: ペインのシリーズは初め、戦って終わるのか、話し合いで終わるのか決めてなかった。話し合いで、と決めるまで時間がかかった。アクション場面を描きながら考えていった。それでも、キャラクターがそんなに素直じゃないんで、簡単にこっちが思ったように動かすことはできない。それをやったら僕が気持ち悪い。 ASS03 「少年マンガのタブー」に挑む

──新聞記者的な見方かも知れませんが、「暴力が生む憎しみの連鎖」というテーマが浮かび上がってきたのは「9・11」後の世界情勢の反映ですか?

岸本さん: あまり現実の世界の「どこの国とどこの国が」みたいに当てはめて言いたくはないんだけど、暴力を振るってくる敵側も何か理由があってそうなったんじゃないか、どんな理由があるかを理解しないと、ここで敵をやっつけることができても結局同じことの繰り返しになるんじゃないか、と言いたかった。少年マンガだからどうしても暴力は出るので、そこに「暴力否定」みたいなテーマを持ってきたから解決が難しいことになった。最後に対話で解決、という方向を思い切って選んだけど、少年マンガ的にはタブーに近いことかも知れない。当時「これでいいのか?」と脂汗を流して悩んだ。ストーリーを考えようと机に座ってハッと気づいたら3時間経っていた、ということがあって、「意識が飛ぶ」という人生で初めての体験をした。これは精神的にマズいな、と思った。思い返すとあれが自分にとってスランプと言えばスランプだったのかも。

だいたいの少年マンガって、主人公が1話目で成長を遂げて、あとはずっとブレずに自分の信念の通りに動いて、周りに影響を与えて、出会ったキャラクターたちを変えていく。途中まで『NARUTO』もそれで進んでいった。でもナルトはペイン戦のあたりで、どうしたら争いのない世界ができるかという問題にぶつかって悩む。主人公だからずっと強いままで迷わず進んでいく、という道もあるけど僕はそれはちょっと違うなと思った。だからナルトは考える。僕も考えなきゃならない。すごくキツかった。担当編集者とも言い合いをした。「少年誌なんだからここはぶん殴ってスッキリした方がいい」「いや、殴ったら暴力でしょ」といった具合に。でも人生って、いろいろあるもの。壁にぶつかる主人公の方がリアルだと思う。

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ナルト、自分を投影

──『NARUTO』の世界は、五つの大国がそれぞれ、戦力である「忍びの里」と、強大なエネルギーの「尾獣」という魔物を抱えることで、パワーバランスを保っている。核保有国を連想させます。

岸本さん: そうですね。ニュアンスとして忍者は軍隊、尾獣は核兵器というイメージで、尾獣でバランスを保っているけど、本当に尾獣を使おうとすれば破滅へいたる危険がある。『NARUTO』にはそのバランスを崩し尾獣を使おうする『暁』という組織が出てくる。『暁』は里に属さない、傭兵(ようへい)組織のようなところがあって、筋立てとしてはリアルな世界でもあり得るもの。長く連載をやっていると、現実世界からインスピレーションを受けることや、重ね合わせて考えてみるようなところがでてくる。

 

──ナルトって、岸本さん自身ですか?

岸本さん: 主人公だから似てるところはある。ラーメン好きだし。落ちこぼれのナルトは、勉強が苦手で劣等感が強かった自分を投影している。ナルトが「オレは火影になる!」(ほかげ=ナルトの属する里の長の称号)と言うと、「なれるわけないじゃん」と周りに笑われる。子供の頃から何の根拠もなく「マンガ家になる!」と言っていた自分と重なる。「なれるわけないじゃん」と言われても僕はナルトみたいに「絶対なる!」とは言い返せなくて、「でも、なれるかもしれないよ」と心の奥でつぶやくくらいだったけど。それにしても、あんなに国語が苦手だった僕が、物語を作っていろいろな登場人物を描くマンガ家になるなんて信じられない。この場面の登場人物の心情を読み解いて答えなさいなんて問題は、テストで全然わかんなかったのに!

 

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無限月読は「逃げ」

 

──砂や虫を使うといった多彩な忍術のアイデアはどこから? 有効範囲はこうで、発動条件はこうで、といった技の設定も細かいですね。

岸本さん: 技とかは、今まで見た映画とかのイメージがあるのかもしれないけど、担当編集者との打ち合わせの中であれこれ考えて出てきたもの。技について細かい設定やルールを決めたのは、縛りがあった方が面白いから。縛りがあった上で、駆け引きや相手をだます引っかけみたいなのをやりたいと思った。お話が進むとどんどん大がかりになっちゃうけど。

──頭脳派のシカマルが仕掛ける作戦は面白いですね。うならされます。

岸本さん: すごい頭のいいキャラクターに設定したので、僕が苦労した。僕が一生懸命時間をかけて複雑な段取りや何通りもの手順を考えて、マンガの中でシカマルがそれを一瞬のうちにやってしまえば、頭がよく見えるだろうと!という感じで描いていた。自分の能力の範囲を超えたキャラクターはあまり出さない方がいいな、とシカマルを描いて感じた。

──終盤で敵がしかける「無限月読(つくよみ)」は、地上の人間すべてを平和な夢の世界に閉じ込めるという大がかりな術です。それをナルトは拒絶し抵抗します。

岸本さん: 無限月読というのは「逃げ」なんです。「忍(しのび)とは耐え忍ぶ者」というのが『NARUTO』のテーマ。何をやるにもガマンが大切だけど、反対に、ガマンせず楽な方へ逃げたいという気持ちは誰にもある。僕も弱い人間なので、いついつまでにこの仕事を終わらせなきゃいけないという時についテレビやDVDへ逃げたくなる。そうしたリアルからの逃避が無限月読。逃げたい自分を戒める思いを込めて描いていたところがある。

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40歳「中身はガキ」

──『NARUTO』の人気をどんな時に実感しますか?

岸本さん: マンガ家って、いつも部屋の中で机に向かってばかりだから、人気があると言われても実感することはなかなかない。海外からたくさんファンレターが来るようになって、そうか海外でも人気なのか、と。どこの国の言葉なのか分からない、知らない言語で書いてあるものも来るので、いろんな国で読まれているんだなぁと感じる。ちっちゃい子がナルトの格好でポーズを決めている写真なんかがファンレターに入ってることがあって、そういうのを見ると和みますね。

──尾田栄一郎さんの『ONE PIECE』と二枚看板で「少年ジャンプ」を引っ張ってきましたが、意識していた?

岸本さん: 意識しない方がおかしい。同じ雑誌でずっとトップを走っている作品だから。『ワンピ』があったからこれだけ『NARUTO』を頑張ってこられた。特別な存在として、感謝している。競い合うライバルがいるからこそ、お互い高め合い、成長していくことができる。「友」と書いて「ライバル」と読む。「少年ジャンプ」の王道です。

──11月8日の誕生日で40歳になりました(インタビュー時はまだ39歳)。心境は?

岸本さん: 中身はガキです。連載を始めた25歳の頃とちっとも変わってない。「人気が落ちて、いつ連載が打ち切りになるだろう?」とビクビクする気持ちはさすがに減ったけど、いいマンガ、面白いマンガを描かなきゃと机に向かってきただけ。それでそのまま15年たっちゃった。昨日、サプライズで初代の担当さんが花束もって来てくれて、泣きそうになるのをガマンしたけど、一瞬で新人のころに戻っちゃう。『NARUTO』を始める前、一緒にストーリーやキャラクターを考えていたころに。あ、新しいアシスタントが入ってきて、小学生から『NARUTO』読んでました!って言われた時は自分のトシを感じましたね。

──昔の自分にメッセージを贈るとしたら?

岸本さん: 23か24歳の、実家の縁側でコピー用紙に適当にナルトのキャラクターを描いてた自分に言ってあげたい。「そいつ、大事にしろよ! そいつで15年も連載するんだぞ」って。

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きしもと・まさし 岡山県出身。1995年、「カラクリ」にて新人漫画賞「ホップ☆ステップ賞」佳作を受賞。97年、増刊「赤マルジャンプ」に読み切り「NARUTO」が掲載され、デビューを果たす。99年に「NARUTO―ナルト―」の連載を開始。

インタビュー小原篤
撮影内田光、佐藤正人
制作上村伸也、小林由憲、佐久間盛大、中西鏡子、神崎ちひろ、木村円

(SOURCE: http://digital.asahi.com/special/naruto/index.html)